プロット習作

『Silent Eveを待ちながら』 ・・・視界の端で隣のビルのイルミネーションが流れてゆくのを感じながら、僕はまた昔のことを思い出していた。まだ小さな僕の手の上に、ラッピングされた小さな箱が乗っている。やーいあいつ、自分の持ってきたプレゼント廻って…

『テレフォン・ノイローゼ』 ――進み具合はいかがですかぁ? 大阪訛りの男の声で、これが何十回、繰り返される。そのあとに、 ――最低ね、あんた。死んでやるッ! 女の声が一回。それで終わり。また週が一回廻ったのだと知る。 雲は多いが、降ってはいないよう…

『地下室のメロディー』 その空き巣、随分臆病だな、と口に出してしまったことに自分で気付くのに、若干の誤差があった。男は反射的に黙り込んだ。考えるだけで留めておくつもりだったのに・・・と弁解するかわりのように。 テーブルの向かいの恋人が、聞き…

『そして僕は途方に暮れる』 「好きな色で描きなさい」とその人は言った。 とてもきれいだったその人―― 父は名前で呼び、母は「あんな女」と呼んだ。 母は夢など見るような人ではなく いつもなにか記けてはため息をついていた。 夕暮れの逆光―― きれいだった…

『スローバラード』 あんたが死んだって知ったのは、スポーツ新聞の見出しだ。やけに神妙なTVのコメンテーターなんかより、どんなときだってケバケバしい紙面があんたの訃報にはよく似合ってる、そう思ったのは俺だけだろうか? あんたの歌をよく聴いてたの…

『Ordinary World』 「どっこいしょ」などと自分の口から発せられたなんて信じられない。そんな気分を引き摺りながら、 伍郎はかれこれ10分は玄関口に腰掛けていただろうか。ふいにまた空腹が迫ってきたので、彼はまた腰 を上げて、スーパーのロゴ入りのエコ…

『漂泊者(アウトロー)』 あの歌だ。 めずらしく早退けした帰り道、立ち寄った夕暮れの本屋。ラジオから流れてきたのはあの歌だった。 もう30年も前、一日中居た毛布の中からふいに顔を出して、つけっぱなしだったラジオに、「騒がしいけれど、あたし、この歌…

『気にしてない』 横で穏やかに寝息を立てる君を見ながらーー 僕は思い出していた。君のあのハイヒール、何度も継いだ跡があった。「きっと運命よ」と今でも、君はよくはしゃいで笑うね。そして僕が想うのはーーもしも僕があの時通りかからなかったら、では…

『abc...i love you』 「???」 謎の言葉が、まだ誰もいないはずの教室に響いた。 ギクリとして反射的に辺りを窺うと、すぐ脇に青い眼に金髪の同級生が立って、私の手元を覗き込んでいた。誰かから見下ろされるなんて随分久々で新鮮だなーって、そうじゃな…

『静かなまぼろし』 「ふみおばちゃん、これあげる」 幼い姪がにこにこと笑いながら、言った。 「なあに? 有希ちゃん」 私は緑とピンクで描かれた拙い牛の絵の上に、広げた手を差し出した。 「な? 親父。やっぱり年金なんかアテにならないじゃないか。マン…