『Silent Eveを待ちながら』



 ・・・視界の端で隣のビルのイルミネーションが流れてゆくのを感じながら、僕はまた昔のことを思い出していた。まだ小さな僕の手の上に、ラッピングされた小さな箱が乗っている。やーいあいつ、自分の持ってきたプレゼント廻ってきてやんの――誰かの騒ぐ声。幼い僕は表情もなく、ただ立ち尽くす。




 ――ね、 あの若いほうの警備員、ヘビみたいでしょ?

 うわウソマッジー・・・はしゃぐような声を遠くに、僕は聞こえないふりをする。この詰所の小窓の向こうで、人の流れを無表情に見送る。気にすんな、と年長の同僚――チョーさんという――が言った。気にしてるように見えたのだろうか。

 あの子ならどう思うだろう? 広報のパンフレットにも今時載らないような工夫のない制服の着こなし――名前は知らない。別に顔が整っていないようなわけでもないのに、いつも申し訳なさそうな顔をしている、目立たなさそうな若い女子社員。

 監視カメラの死角――毎晩、僕は見回りがてら長い廊下でステップを踏み、階段の手すりで新体操の真似事をする。そしてうっかり、居残っているあの子の手元を懐中電灯で照らし出してしまう。周りの机には誰もいない。




 ・・・あの子は僕の制止の声をきっかけにするかのように急いで屋上の柵を乗り越えた。そして手すりを離し、夜景と向き合うかのように少しの間動きを止めた。何かに押されるように、僕は早回しで駆け続ける。




 ある朝僕は声もなく、自分の出てきたビルを見上げていた。幅は僕の視界を超えそうで、先っぽは霞んで良く見えない。身震いして、僕は歩き出す。出社してくる背広姿たちが、ただ下を向きながら、僕と反対に歩いていく。背の高いビルとビルの隙間に、不気味に広い空が広がっている。

 カーテンの隙間からの強い日差し。クーラーの音の中、僕は寝付けず、TVゲームを始める。そういえばあの子、ちゃんと息抜きしてるのかな――ぼんやり思いながら、慣れた手つきで、敵機を撃ち落としていく。




 詰所のクリスマスツリーになんとなく気をとられていると、そろそろ向かいのコンビニの弁当が安くなる時間だな――と、チョーさんが言いきりもしないうちに、モニターに向かってあっ、と声を上げた。

 ――屋上に誰か出たみてえだ。




 ・・・音もなく空中へ歩き出すあの子の手首を、僕は掴んだ。つま先があてもなく弧を描いて、ビルの壁に当たる。あの子は、痛っ、と反射的に呟いた。

「離してよ!」
「いや、そういうわけには――」

 自分でも何を言ってるんだろうと思った。それでも無表情な僕の顔に、目の前のあの子が言う。

「あんた、みんなにヘビみたいって言われてるの、知ってる? お前みたいな暗い女は、あんたみたいのがお似合いだって、あいつら――」

 自分で言った言葉に唇を噛んで、あの子は僕を睨みつける。

「なにがあったかよく知らないけど、死のうなんて――」
「あたしの勝手でしょ!」
「そういうわけには――」
「どうしてよ!」

 聞かれて、僕は一瞬戸惑った。その顔を、チカチカとイルミネーションが照らしているのが判る。なにか言わなくちゃ――

「し、仕事だから」

 自分で自分に呆れた。そしてタイミング悪く、結構な音とともに、近くのテーマパークから花火があがった。そして、どこか作り物めいた鐘の音――そのとき、彼女が吹き出した。

「いいわ、わかった」

 ただぶら下げていたもう片方の手を、彼女が屋上の縁にかける。まるで祝福するみたいに、花火が空を照らした。




・・・・・・・・・・




個人的にはここ数年クリスマスとか関係ない感じで、しかも今回は鼻水が出るわ喉は痛いわでなんか風邪っぽい。なのでうな丼食いながら頑張って書きました――いや、なんか昔風邪引いたときに親にうな丼を食べさせられて以来、なんか風邪にはうな丼って感じなのですよ・・・あんときは確かそれを食いながらテレホンショッキングイエモンが出たのを見た気がする・・・。
タイトルはZIGGYさんね。そうそう、『CRAWL』ってCUREの『Pornography』に似てるよねー・・・って、誰もわからんかそんなの・・・。