『スローバラード』


あんたが死んだって知ったのは、スポーツ新聞の見出しだ。やけに神妙なTVのコメンテーターなんかより、どんなときだってケバケバしい紙面があんたの訃報にはよく似合ってる、そう思ったのは俺だけだろうか?



あんたの歌をよく聴いてたのはもう何年も前さ。あの頃の俺は女のことしか考えてなかった。あんたも昔はそうだったらしいけど、そんなこと知ったのは随分あとになってからだ。その頃の俺にはあんたの歌がいちばんしっくりきた、ただそれだけだよ。



覚えてるのは蒸し暑い夜のことだ。その頃付き合ってたのは少し頭の弱い女だった。そいつ、俺があんたの歌が好きだって言ったら、調子に乗ってあんたの歌だけしか入ってないカセットテープ作ってきやがってさ、狭くてボロい中古車のカーステレオからは、エンドレスリピートであんたの歌が、「愛し合ってる」最中も延々流れてた。正直言ってちょっと調子っ外れなところのあるあんたの歌声は、少なからず俺の気分を萎えさせたもんだ。



そんで、なんだかんだで無事にコトも済んで、ようやく吹いてきた窓からの風で涼んでたその時だ。タイミングよく"あの歌"が始まったのは。「昨日は車の中で寝た あの娘と手をつないで」なんて歌い出しなんだものな、あんまり出来すぎてるんで、その女と二人でしばらく品のない笑い声をたてたもんだ。・・・あの女、元気にしてるかな。もう何年も会っちゃいないけど。




・・・まああんたもせいぜい、あの世で頑張ってくれよ。知ってるんだぜ、あんたは死ぬなんてなんとも思っちゃいなかった。そうだろう?



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最初だけノンフィクション。ま、人間いつかは死ぬんだぜ?