「ROYAL STRAIGHT FLUSH 1989-2000」/沢田研二


※ジャケット画像は、お好みでどうぞ。




 昨年末あたりから、「'70年代のジュリーは確かにカッコいい。'80年代も、売れてなかろうが売れてなかろうが、カッコいい。でも、本当に最高なのは'90年代のジュリーなんだよーーー!!!」と知り合いに語ることしきりの茶々某だったんですが、それが高じて作ってしまったのが今回のアルバム。そうね、俗に言う「CD焼いたよ」ってヤツですが、「確かに'90年代のジュリーは最高だなあ」と、我ながら(?)ニヤニヤしてしまうほどの出来映えなので、恥を忍んでレビューしてみる(ま、このカテゴリの趣旨は「作業BGM」だしね)。お気に召したらこれを参考に、ジュリーマニアの諸兄諸氏も布教用のCD焼いちゃったりしてみてもいいんじゃないでしょうか、などと言うのもおこがましいくらいファンにとっては当たり前みたいな選曲なのがなんともまあ・・・ですが。




1.そのキスが欲しい

 '90年代のジュリーにとって、これほど鉄板な曲もないであろう。'93年のアルバム『REALLY LOVE YA!!』から。「あなたはいつまで彷徨うつもりなの?」「あなたはいつでも視線を気にしてる」と揺さぶりをかけ、でも「そのキスが欲しい!」とのたまう、オーラ溢れまくりというか、ジュリーじゃなきゃ許されない一曲ですな。個人的には、バブルとか崩壊しちゃったりしたけど、「空白の10年」とかだけど、大丈夫、きみの心が揺らいでも道に迷おうとも、僕がいつでもここで抱きしめてあげるよ・・・と微笑みかけるような、そんなジュリーなりのメッセージだったんじゃないのかな、と解釈しているのですが。


2.光線

 もう、なんと言えというのかと。ハードロックなサウンドをもキワキワのバランスでノして進んでいくジュリーが、只々カッコ良すぎる。'90年のアルバム『単純な永遠』から。で、このアルバムからは最初、タイトル曲を選んでたんだけど、まあ初心者布教用ということを考慮してこっちにしてみた。ギンギンにロックだけど、洗練されている・・・という吉田建プロデュースが冴え渡っております。


3.噂のモニター

 '89年の『彼は眠れない』より。マスコミを常に騒がせてきたジュリー(まあ、リアルタイムでは知らんけどさ・・・)だからこその、痛烈な皮肉、でありながら、おめーら浮かれてんじゃねえよ、噂ゴッコなんか楽しかねぇよ、「俺」(=個々人)は「ここ」にしかいねーんだよっ!という普遍的なメッセージにまで昇華してしまっているのは流石。アコースティック・ギターが引っ張るサウンドの、硬派ながら独特な派手さも、「大人のロック」という言葉が相応しい。で、そろそろ「あれ、『'90年代のジュリー』なんじゃないの?」というツッコミが聞こえてきそうだが、「カッコいい'90年代のジュリー」は厳密には'89年のシングル『muda』から始まっているのですよ?という判る人にしか判らないようでいてそうでもないロジックでかわしてみる。つまるところ、'88年までと、主に吉田建氏のプロデュース(※'93年まで)に切り替わるそれ以降とではサウンドに変化がある、ということなのです。


4.BACK DOORから

 無粋なロジックは後回し、俺は今夜お前の閨に忍び込んでやるぜ! という、それだけの曲だが、それだけの曲をここまでダイナミックに出来るのがジュリーなのだ。無機質なシンセ・リフの導入から歌がインしてくる流れは、何度聴いてもゾクゾクする。ジュリーのパフォーマンスの変幻自在さときたら!・・・あ、'91年『パノラマ』より、です。


5.月明かりなら眩し過ぎない

 '92年『Beautiful World』から。このアルバム、ファンの中でも賛否両論らしく、そして僕個人としても賛否両論なのだが、伸びやかなジュリーの「いい声」を堪能するに、なかなか適したアルバムではないかと。そんな良さを存分に出せているのがこの流麗なバラード。作曲は流石の大野克夫氏。まあ多少、甘ったるいと言われる向きもあるかもしれませんが・・・。


6.SPELLN 〜6月の風に揺れて〜

 まんま「Eleanor Rigby」な弦楽器隊が美しすぎる、これはジュリー流のシャンソン。これも'91年『パノラマ』より。何といってもこの曲の肝はやはり、「僕はこんなに大人になってはじめて恋をしたのに 今ではなにもかも 失くした」というラストのフレーズだろう。実はこの曲、簡単そうでいて歌ってみると難しかったりするのだけれど、それはこのフレーズと、そこに至る詞とに僕が感情移入しすぎてしまうせいかもしれない・・・(知ったことかって? 仰る通りです・・・)


7.恋がしたいな

 そんなわけで、恋がしたいな、という(笑)。'95年『SUR(ルーシュ)』から。このアルバム、コンセプトはタイトルの通り「シュールな歌謡曲」なんですが、タイトル曲とかよりもこの曲とか「時計/夏が行く」だとかの方が、そのコンセプトがハッキリ顕れているように思う。「胸に小さな悪魔 飼いならして僕も ワインの空瓶に独り言詰めよう "恋がしたいな"」と、「あのジュリー」があくまで爽やかに嘯いてみせるそのシュール(超現実)っぷりったら! 蛇足ながら、この曲のギターの響き方、きっとジュリーは好きだろうな・・・と思ってみたり。


8.オリーブ・オイル

 そろそろロッキン・ジュリーが聴きたいぜ、そんな感じ。「背中を噛んで 胸を掴んで 愛ならもうびしょ濡れだよ」なんて、一気にギットギトになったような気もしますが、「デジ・ロック」な体裁がこの曲をギリギリの線で生臭くない、「きわどい!」というレベルに留めている。ジュリー・プロデュース、流石だ・・・(ちなみに'95年の『SUR(ルーシュ)』からこっち、ずっとジュリー自身のセルフプロデュースなんである)。'97年『サーモスタットな夏』から。僕はタイトル曲とか「僕がせめぎあう」とかも好きですが、一曲抜き出すとしたらなんといってもこれでしょ。


9.moon nouveau

 このタイトルをいきなりスペルミスなしで打てるようになったのも、この曲のおかげです(笑)。'96年『愛まで待てない』より。このアルバムはなんといってもタイトル曲がハードロック×グラム・ロックな名曲なんですが、アレはアレで、殆どの場合アタマか締めにしか使えない、それぐらいインパクトありまくりな濃ゆ〜い曲なので、替わりにコレで。と言っても、ミュージカル風のめくるめく展開に、妖しさと不可思議さも濃密な、これも隠れた名曲。


10.ホームページLOVE

 何を考えてこういう繋ぎなのかはご想像にお任せしますが(笑)、'98年『第六感』から。背後で不穏に響き続けるシンセも効果的な、これはジュリーなりの「"ホームページLOVE"なんて、ヤバいでしょ」というメッセージだと、僕は解釈している。「ホームページLOVE」とは何か、それつまりどこまでも自分本位で空虚な、イマドキな「愛」のことなんじゃないか・・・そんな気がする。それにしてもこのアレンジは・・・白井良明先生は変態だなあ(笑)。


11.君を今抱かせてくれ

 '94年『HELLO』から(プロデュースは後藤次利)。これってつまるところ「そのキスが欲しい」の変奏曲のようなものだと思うんですよね。「数だけで女を語るような 悲しい男でいたくないから」「価値だけで男を語るような 儚い女にしたくないから」というのは、一貫してエネルギッシュに恋の歌を歌いつづけてきたジュリーならではのメッセージだろう。・・・ところで、この曲に限らず、ジュリーの曲って、特に本人作の詞ではないのにまるでジュリー自身のメッセージであるかのように聴こえる曲が多々あるのだけれど、それはやはりジュリーが、他人の詞であれなんであれ自分のものにして歌っているということの端的な証なんじゃないかな、と僕は思うんですが、如何なもんでしょう?


12.耒タルベキ素敵

 '00年の同名アルバムより。かくて華やかなりし'90年代/20世紀を後に、深く静かに、ジュリーは次の世紀に向かうのであった・・・なんちゃって。アルバム『耒タルベキ素敵』自体が2枚組フルにロックするというとんでもないアルバムであるように、この曲もまた、ただの黙示録的・宗教的な一曲ではない。「何も言わない僕たちの夢が この世の平和と告白したら みんな笑うだろうな」というさりげないメッセージとともに、ジュリーは「まだまだやるけど?」としたたかに舌を出してみせているのだ。それはあまりにもノイジーなギターソロしかり、かつてなかったほどの壮大なコーラスしかり。ジュリーは基本的にはなにも変わりはしない。変わっているのはその時々の装いだ。いつだってジュリーは醒めていて、でも熱かったのだ。――輝くものが弾け合うのが耒タルベキ未来、だろう?




 と、いった感じで、これ聴いて「ジュリーってカッコいいんだね」って思わないようならその人はきっと適性がなかったんでしょうなどと書くとおこがましいですけど(笑)、意外にもそんなに僕個人の趣味とかは反映させず、そこそこオーソドックスな選曲をしたつもり、で、こうなった、という。聴き易さを考慮してたった12曲だけど、きっと容量に限度がなけりゃこの間のアルバムをぶっとおしでもきっと構わないのだ。それくらい'90年代のジュリーは頑張っていたのだ。
とか言いつつなぜか'99年のアルバム『いい風よ吹け』から1曲も選んでないのはなぜかというと・・・あれはちょっと、ある意味でぶっ飛んでるので、トータルで聴いてもらったほうがいいんじゃないかな・・・と僕は思うのである。アレですよ?「ティキティキ物語」とか「無邪気な酔っぱらい」とか、僕は好きですけど、駄洒落でアングラでオルタナなジュリーって、初心者向けじゃないじゃない?・・・どうなのかなあその辺。


※追記
iTunes等で、「光線」「恋がしたいな」は曲の最後、「オリーブ・オイル」「moon nouveau」はアタマと最後、「ホームページLOVE」はアタマ、の、トラックの無音の時間(曲間に相当するもの)を適宜切って組むとより一層「流れ」が出来てよろしいのではないかと思われます。