■
「OH! ベスト」('01)/岡村靖幸
まずは収録曲のリストをご覧頂きたい。
まずタイトルから曲調を予想してみてほしい。"マシュマロ ハネムーン"はきっと可愛らしい感じかな、とか、"Out of Blue""Check Out Love"はちょっとストイックっぽいカッコつけた感じかな、とか、"Young Oh! Oh!"なんてチャラいだろうし、"Dog Days"はよくわかんない、"イケナイコトカイ"はなんとなくスケベっぽいような不思議なような・・・とか。
では曲を聴いてみよう。おそらく事前に予想した曲調から大きく外れる曲はない筈である。"だいすき"はストレートなラブソングだし、"友人のふり"は内省的だし、"どぉなっちゃってんだよ"はそのまま「どぉなっちゃってんだよ!」と問いかける歌だ。"あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう"はやっぱりめまぐるしくて、キラキラした青春っぽい曲なのである(ちなみに略して「あのロン」)。まずそういう意味で、岡村ちゃんはストレートだ。
そして、歌詞カードに記されている各曲の発表年と音を照らし合わせたときに、ここでもある種のストレートさがある。各時代の雰囲気に沿わない曲がないのだ。’80年代中盤の好景気からバブル期、それがはじけて混沌として、変に生っぽかったり感傷的だったり・・・というおおよその流れを、この曲順(註:最初の"マシュマロ ハネムーン"のみ当時の最新曲)でそのまま辿っている。歌詞の中身もそうだ。C調(死語)からバブリーに、それを懐疑的に見つつ、校内いじめやヘアヌード、核家族化や援助交際まで盛り込んで、意外にきっちりその時代のムードや時事問題に付き合っている。
「変態」「エロ」「孤高」「天才」という言い方をされる彼だが、実際は誰にも付いて来れないような捩じれたものが作品として出てくることは殆どないし、なおかつマイペースに勝手なことばかり言っているわけではない。むしろ逆で、広く不特定多数に向けて発表する上で最低限必要と思われる程度は、きっちりと「開かれて」いる。その上で、
Baby なんか強引ですが今、Teenagerのあなたが
なんで 35の中年と恋してる
きっと 本当の恋じゃない 汚れてる 僕の方がいいじゃない
同級生だし バスケット部だし 実際青春してるし 背が179!("聖書")
君が好きだよ 心に住んでる修学旅行が育つんだ("ラブタンバリン")
それでもどうしてもメリークリスマス だめだったならばハッピークリスマス
今夜電話してこいよ 来年の作戦考えようぜ("Peach X'mas")
どきどきするべきだぜ歴史上の史実の様に
そう、無難でずさんじゃせっかくの物語で
自ら脇役に志願してるようなもんじゃん("真夜中のサイクリング")
といった、独特な表現が次々に飛び出してくる。オリジナリティー溢れるボキャブラリーとリズム感で繰り出される、岡村靖幸だからこそのメッセージ、といっても良いだろう。
この拮抗こそが実は岡村靖幸の最もスリリングなところではないだろうか。アーティスト「岡村靖幸」というまな板の上で、誰が何と言おうと譲れない情熱と、こちらもそう容易くは譲ってくれない「常識」や「時代」が闘っている。まずはそのどちらが良い悪いではなく、その闘いの様々な様相が、抜き差しならず、かつ表情豊かである、ということ。もちろんこんな芸当はよほど当人のメッセージや表現に純度が高くなければ出来ないことだろうけれど。