「royalstraightflush00」/沢田研二


※今回もジャケット画像は、お好みでどうぞ。




 ・・・さて。

 前回の冒頭で、「'70年代のジュリーは(中略)'80年代のジュリーも(中略)でも本当に最高なのは'90年代の(以下略)」なんてことを書いたが、じゃあ'00年代はどうなのよ?と、我ながら思った。その辺率直に書くと、「カッコいいに決まってんじゃん・・・まあ全面肯定はしないけどさ・・・」という感じ。前回あれだけエラそうなことを書いた割に、僕がジュリーに目覚めたのは2003年のことなので、むしろリアルタイムで追っかけてきたのは「'00年代のジュリー」なんですが(ごめん)、『快傑ジュリーの冒険』で見られるような「美しすぎるジュリー」は何処へ?などと不埒な惑いを抱えながらの道程だったことはやっぱり否めないわけで・・・。今回は、そんな自分に向けての「CD焼いたよ」。ちなみに全て沢田研二プロデュース&白井良明アレンジです。



1.睡蓮

 '03年のアルバム『明日は晴れる』より。同年のツアーのオープニングでもあった(らしい)。僕にとって初めて買ったリアルタイムのジュリーのアルバムで、ネット上では「地味」と言われることの多い作品でもあったりしたけれど、僕にとっては十分「派手」だった。ギターはやかましいし、ベースはブンブン唸ってるし、ドラムなんかバカンバカンした炸裂音だし(以上、全部褒め言葉です)・・・で、「地味派手なアルバム」と僕はひそかに呼んでいたりする。むしろアバンギャルドですらある。誉め過ぎ? まあつまり、「水に浮く睡蓮の花は 泥にまみれる根があるから きっと綺麗に咲けるのだろう」という詞もそうだけど、地味に見せかけて、実はブッとんでる・・・という「大人なジュリー」のカッコ良さなんじゃないかな、これは。


2.カリスマ

 翌'04年の『CROQUEMADAME & HOTCAKES』より。これも同年のツアーのオープニングだった(らしい)。前作までとは一転して、「あのギンギラなジュリーが帰ってきた!」と(ファンの間では)大絶賛なアルバムで、僕も異論はあまりないようでいて、実はそうでもないかもしれない。この曲も妖しいグラムロック調なのだけれど、例えば、「ナルシスのふり、してる いいさ、期待通り 愛が過剰なALL MY LIFE こんなにいらないよ たったひとつ、君の愛だけで」という詞は、'00年代に入って自らを顧み始めた作風、その路線から逸脱したものではない。キーボードレスな編成は相変わらずだし、こういう曲ならその気になれば、きっといつでもお手のもの・・・そんな余裕を感じる。


3.greenboy

 '05年の同名アルバムから。今となっては「ギンギラなジュリー」感は、前作よりもむしろこちらのほうに感じるのだが、どうか。やはりキーボードレスながら、浮遊感でもありミステリアスでもありなアレンジが素晴らしい。そして、あまり指摘されない(と思う)ことだが、ジュリーの貫禄ある声が入ることを計算してのこのアレンジ、なのである。


4.海にむけて

 '08年『ROCK'N ROLL MARCH』より。今生の別れをテーマにした歌詞ながら、重ったるくないのは、ベースレスという変則的なサウンドゆえだろう。シンセアレンジも適度にポップス感がありますな。NHK『SONGS』での、品がありながら飾りっ気たっぷりな衣装でのパフォーマンスも、良かった。あれもまた、確かに「ジュリー」だ(伝わるのかなあこの辺・・・)。


5.あの日は雨

 心機一転「地味派手」になったジュリーの、21世紀初のシングル(『新しい想い出2001』収録)。アコギを重ねたバッキングに、歪み少なめのエレキと、コーラス・・・という定番ながらロックバンド的なアレンジで、結果は甘ったるいバラードの域を脱した、叙情歌とでも言うべき名曲。サビで聴けるジュリーのファルセットは、貴重です。内容としては、残してきた妻へ、先に逝ってしまった夫(恋人?)からのメッセージというところなんだけど、こういう視点での詞であるというところに、女々しいかもしれないけどジュリーの優しさを感じるのは僕だけだろうか?


6.そっとくちづけを

 '07年『生きてたらシアワセ』からのシングル。この年から一転、ギター以外打ち込みという大胆な路線転換を図っているが、アルバム全体としては、どこか霧の中というか、靄の中というか、「地味地味」な印象を受ける。と言ってもただ地味なのではなく、それはもう行き着くところまでいってしまったあとの、寂寞とした叙情なのだ。敢えて言えばそれは寒村を描いた欧風絵画の如し、なのだが、多少「わかる奴だけついて来い」的な置いてけぼり感を感じないでもない。・・・あ、この曲に関しては「ジュリーなにがあったの?」と心配されてしまうほどの切なさで、それはつまり「LOVE(抱きしめたい)」のあの感じ再び、という、つまるところドラマなジュリーの名曲です。


7.桜舞う

 '06年『俺たち最高』から。前作まで5作(5年)続いたキーボードレスから、ベースレスに転換。『俺たち最高』って、個人的には好きな曲とそうでもない曲が交じってる感じで、あまり通しては聴かないアルバムなんだけれど、加えて、どこかとらえどころのないというか・・・音像の柔らかさが詞の落ち着きぶりと相俟って、ただ「ヌルい」ようにも聴こえて、そこら辺が不満だったのかもしれない。この曲はそんな中で、ベースレスで成功したと言える一曲。なんというかもはや水彩画の世界である。


8.忘却の天才

 一時期「老人力」とか流行ったよね・・・とか思ったりしないでもない'02年のシングルにして同年のアルバムのタイトル曲。一応「キスしたこと 踊ったこと 夢見たこと (中略) 抱きしめたかもしんない だけど いいじゃん夢みたいで」と往年のジュリーっぽいフレーズがちりばめてあるのだが、その間に「一つ屋根で暮らしたこと 誓ったこと 三歩歩くそばから 今が昔に変わる」と、なにやら「最近もの忘れ激しくてさ〜」的なフレーズがしっかり入っているという、考えてみればなかなか凶悪な詞だ(笑)。曲調自体もどこかおどけた感があって、個人的には「危険なふたり」に似てる気すらするのだが・・・。ちなみにイントロやリズムパターンは打ち込みではありません。


9.不死鳥の調べ

 同じく'02年『忘却の天才』より。詞のまんまボレロ風のリズムで始まり、いつのまにか疾走するロックになっているという、あれ、これってなんか今までにないジュリーだよね、で、なおかつちゃんと「ジュリー」だよね、な一曲。実は『忘却の天才』はこういう試みをしまくっている、ある意味大胆なアルバム(だと思う)なんだけど、キーボードレスで骨太な音作りのせいで若干その辺がわかり辛い気もする、のだ・・・。


10.奇跡

 さて一曲だけ前世紀。'99年のアルバム『いい風よ吹け』から。'09年のニューイヤーライブ(=正月コンサート)「奇跡元年」のオープニングでもあった(らしい)。左右にフリーキーなギターとシンセを振り分けて、「小さなキスさえ 奇跡に満ちて この世はまだ捨てたものじゃないよ」と歌う、シャレが効いてるというか、なんというか・・・小粒でかわいい一曲。僕は嫌いじゃないです(←逃げ?)。完全に裕子さんとののろけですね?ともとれる詞だが、別にこれは、言ってみれば「ラブソングを通して覗く"永遠"性」で、いいじゃないか、ねえ?。


11.明日

 打ち込みdeロック。'07年『生きてたらシアワセ』より。音はなんともスカスカだが、変に重ったるくならずに駆け抜けるこの感じ、僕は好きです(→逃げてない!)。なによりジュリーが気持ち良さそうに歌っているのが、なんかいいのだ。「敢えて言うなら僕らの日々は いつも誰かのためにあって すり減っていく自分の何かを 時とともに感じている」というのは、説教臭いようでいて、実はジュリーほどの密度のある人生を送ってこなければ説得力をもたない詞。


12.俺たち最高

 '06年『俺たち最高』から、タイトル・チューン。この年からジュリーの新曲のネット配信が始まっていて、この曲を試聴したとき、ジュリー変わった!と思ったのだが、それはやっぱりキーボードの復活(と、ベースレス)に依るところが大きいと思う。骨太な「地味派手」ではだせなかったこんなポップ感覚は、ジュリーはやっぱりスターだ!と思わせるに十分。「どイツもこイツもイカレてる 俺たち最高さ!」という、ジュリーが歌うから許すと言う他ない歌詞は、なんというか流石だ(笑)。


13.Go-Ready-Go

 とか言っといてキーボードレスに戻る。'05年『greenboy』から、「ロック!」で押しまくる一曲。「ジュリーは太っちゃったから・・・」だって?だからどうしたこれを聴けよ!という感じでもう、いいんじゃないでしょうか。ちゃんと調べたわけではないが、ジュリー史上最も速い曲ではないか、これ。それはともかく、「恐れの中に飛び込む勇気だけが難関突破出来る 生きるためならダイブ」というのは、なにも団塊世代にだけ有効なメッセージではない筈。「風向き変わる 瞬間にあなたは 案外と平凡が一番イイなんてね?」ってのは、率直すぎるとすら思うが(笑)。


14.ROCK 黄 WIND

 ついでに六甲おろしも入れちゃえ(笑)というわけで、あの有名な在阪球団の応援歌の、なんだかやたらハードロッキンなカバー。「わかる(好きな)奴だけついてこい」という感じで、ある意味'00年代のジュリーを象徴している(笑)。ちなみに僕はベイスターズが好きです。あんま野球見ないんで、別にいいんですけどね。


15.オーガニック オーガズム

 〆にこの一聴必殺曲を持ってくる自分のセンスに我ながら惚れ惚れするね(笑)。'04年『CROQUEMADAME〜』の冒頭を飾った純ハード・ロック。裸で汗まみれになって愛し合うって、なんて無添加で地球に優しいのーーー!!!という詞(※意訳)は、ホント何考えてんだとしか(※褒め言葉です)。・・・そう、ジュリーはなにも変わっちゃいないのだ。かつての女性と見紛うようなビジュアルのかわりに、今ジュリーは、こんなとんでもないやり口で我々聴き手を揺さぶってくる。それはもうそんじょそこらの若造にゃついて来れないくらい「ロック」なのだ。ジュリーはロックで出来ているのだっっっ!!!



 ・・・ホント落ち着け、俺。いや、でも、'00年代ともなると「太った」のなんだのというのが世の印象なもんで(まあ実際太ってるし)、映画出ても『カタクリ家の幸福』とか『eiko』とかだしで、違う、そうじゃないんだ、ジュリーはカッコいいんだよおおおおお!!!と言いたい気分なんですよねいつも。だからこういうことになってしまうんですけど、ホントのところはちゃんと毎年アルバムを聴いて、ライブに来て、各自研究するように!という、それでいいよ・・・というのが今のジュリーのスタンスだと思う。変に頑張って岡村ちゃんみたくなっちゃっても困るし(ならないとは思うが)、それでいいと、僕も思う。その証拠に、ジュリーは(お金もらって来てもらう)ライブで決して手抜きしないし、楽しませてくれるじゃないか。そこに僕はジュリーの意地と誇りを見る(最近行けてないけど・・・)。




※追記
 「睡蓮」「カリスマ」「桜舞う」「明日」「俺たち最高」はトラックのお尻を、「Go-Ready-GO」はアタマを少し切って組んで頂くと良いようです。