銀の旋律、記憶の水音。」('06)/田村ゆかり


5th。2006年発売。
先行してシングルで発表されていたアニメタイアップ曲「恋せよ女の子」「Spiritual Garden」がヒット(「Spiritual〜」は初のトップ10入り)、乗りに乗った中で発表されたアルバムで、新規ファンを意識したのか、とっつきやすい、様々な要素をコンパクトにまとめたアルバムになっている。全体の印象はあくまでライトタッチでカラフル。「蒼空〜」の路線を継承しつつ、ゆかりんらしい「かわいさ」を多分に意識した作品といえるだろう。他にも「デイジー・ブルー」「エアシューター」「月のメロディー」など、収録されている作品はシングル・カット可能なポップな曲がほとんど。常套句ではあるが、良く出来たポップ・アルバムの条件を満たす作品だ。



全体は、すっかり定着した感のある、小曲を挟み込んでの構成。「Overture〜bloom〜」「Interlude〜aqua〜」「〃〜aria〜」という三つの美しいコーラスワークをフィーチャーしたそれらは、意外にも、実は初のフル・アカペラ曲。大聖堂に響き渡るような声の重なりが、アルバムタイトルの示すような透明な空間、そこに描き出される旋律、といったイメージを演出してアルバム全体をまとめあげている。




先述のシングル曲「恋せよ女の子」でのガールズ・ポップ感を遠慮なく前面に押し出した弾けっぷりや、「Spiritual Garden」のストリングスと歌、簡素な打ち込みリズムの組み合わせも新鮮なのだが、特筆すべきはみっつののピーク「AMAZING KISS」「Cursed Lily」「POWDER RAINBOW」だろう。


「AMAZING KISS」は、これまでになくシンセフレーズを積み重ねた中で、アジアっぽい異国情緒を描き出すインパクトの強い作品。先行するライブでの披露では間奏部にいわゆる「イリュージョン」を組み込んだ演出もあったという。曲の感触はあえて近いところをあげるならTMネットワークなどの'80年代末のシンセポップだろうか。正直多少時代を感じるアレンジではあるのだが、娯楽性の強いアルバム中において、彩りのひとつのとして、しっかりと成立している。(曲順上での)続く「Black cherry」とひとまとまりになって、コクの強いアルバム中間部を形成している。
そして、今やすっかり売れっ子作家になった感のある作詞家、畑亜貴を起用した「Cursed Lily」は、彼女の持ち味であるシュールでダークな詩の世界が目一杯展開された、ある意味で飛び道具的な面すらあるロック・チューン。「オルタナティブ」な流れの作品ではあるのだが、陰で密かにジェラシーを募らせるような、言うなれば日本的な、「女」性の強い湿った情念の篭ったな詞のダークさはそれらの比ではない。田村ゆかり本人の「清水愛ちゃんの作品を気に入っていて」という流れでオファーにつながったにも関わらず、その当人が当惑したというのも頷ける。かくして出来上がったこの曲は、詞のイメージするところの「情」を強く纏った、透明な空間に只一点鮮やかに朱を零したような歌の、壮絶な作品となっている。感想での絞り出すようなギターソロも含め、バッキングも好アシスト。
一方で、「POWDER RAINBOW」はあくまでポップに、アルバム全体の「透明感」の感触はそのままに、めくるめく展開を擁した作品。見渡す限りの大平原、広がる空に粉雪が旋回しながら舞う様を描いたような高揚感は、ポップスのマジックを聴くようで、楽しい。透き通るようなゆかりんの歌がまた、なんともいえず美しい。



締めを飾る、眠りに落ちてゆくような穏やかなボーカル曲「優しい夜に。」まで、ツルッと一気に聴けてしまう、基本的には前述の通り、コンパクトで聴き易い作品。全体に異様な密度と展開を見せた前作と対照的に、これまでのゆかりんの軌跡を俯瞰的に総括するような、集大成の趣がある。その一方で、打ち込みをメインにした、ある意味家内制手工業的な感触が、そのまま「箱庭」な印象につながっているような気もする。おそらくはアルバムのコンセプトであろう「透明感」(と、「かわいさ」)の構築の中で、あまりにノイズ的な要素がなく、デジタル的というか、「ピュア」過ぎて多少閉鎖しかかった印象というか・・・。それにしたってこれだけの要素をこれだけ高水準にまとめあげているのは大変なことだとは思うのだが。





*******





えー、昨日の「琥珀」が我ながら読み返すに「長い・くどい・読みづらい」だったので、極力コンパクトにまとめてみましたよ。実は個人的に、仕事が辛かった時期によく聴いていたアルバムで、このアルバムをダビングしたテープはとても捨てられないor上書き出来ないな、というくらい大事なアルバムだったりして、そういう自分よりの思い入れが出過ぎるのをセーブした、なんてつもりもあったり。軽いツンデレ
・・・ってか、ツンデレといえば先日のアレ。よくよく読むと「ほんとは自分でも良い出来だとは思ってないんだけど、気になる人に言われちゃったから素直に認めたくない」って意味合いですよね、あくまで「ツンデレ」で解釈すると。どんだけご都合書いてんだよ、みたいな(笑)。しかもその場合「気になる人」ってのは私なわけで(苦笑)。ネタにしたってちゃんと吟味して書かないと恥ずかしいことになるっていういい見本。ってか誰かその辺指摘してくれっての(笑)。



てなわけで、ゆかりん好きな向きに、密かにミッチーを薦めてみる。きっと楽しめると思いますよ(って、そこに繋げて締めかい)