15歳の夏。

当時学校では、少々ガラの悪い連中が、教室に持ち込んだラジカセでBOOWYやら尾崎豊やらを聴いていた。あまりに思春期的な背伸びや反抗をストレートに描いたそれらは、どこか鼻白む青臭さをまとっていて、教師だの親だのを相手に、その場限りの反抗を繰り返す彼らを見ながら、僕は、「ビーマイベイビー」よりも「夜の校舎窓ガラス壊して回った」よりも、「授業をさぼって」「陽の当たる場所」で「ベイエリア」や「リバプールから」の「ナンバー」をひとり聴くほうが何百倍も格好良いのになあ・・・と密かに思っていた。




RCサクセションとの出会いは、ラジオだった。


それまでも「愛しあってるかい」*1を勝手に愛読したり「忌野旅日記」*2は楽しんでいた(本サイト参照)。が、曲は聴いたことがなかったのだ。「昔の曲だし、古くさいんだろうなあ・・・」と、敬遠していた。

そんな15の夏、いつも聴いてたオールナイトニッポン((パーソナリティーはスキップカウズの今泉泰宏)・・・知ってる?)で紹介された「雨上がりの夜空に」で、僕はちゃんとRCと出会うことになる。「え、これって・・・」とダブルミーニングに少し照れつつ、「こんな夜に発車出来ないなんて」という、「ハッシャ出来ない」という語感が、僕はひどく気に入った。こんな豊かな言語センスを、ゆったりと、しかし腰の据わったグルーブで聴かせてくれるこのバンドを、僕は気に入った。

しかし僕は、すぐにRCのCDを買わなかった。それはいつもどおりの金欠もあったけれども、直接のの原因は、実は母親のCDラックの隙間に隠れてた一本のカセットテープだ。

A面には清志郎がゲスト出演した番組の、そしてB面にはおそらく同時期のライブ音源のエアチェックが入っていて、このふたつの番組内でオンエアされている曲は「ぼくの好きな先生」「やさしさ」「ヒッピーに捧ぐ」「雨上がりの夜空に」「よォーこそ」「スローバラード」「ボスしけてるぜ」「SWEET SOUL MUSIC」「トランジスタ・ラジオ」・・・といった感じで、これはもう立派にひとつのベスト選曲であり、RC入門編として成り立っていた。


遅刻の多い「僕」を困ったように口数少なく叱る、職員室が嫌いな、愛すべき『僕の好きな先生』、「誰もやさしくなんかない」とフォーックソング的な連帯感をぶったぎる『やさしさ』、「どうだい? のらないか?」メンバー紹介とライブのイントロダクションを兼ねた『よォーこそ』、「ねえボス すこしだけでもアップね 僕の給料」笑えないのに笑えるシチュエーションを描いた『ボスしけてるぜ』、恋人との車中の一夜の、時間の止まったような透明感を描き出す『スローバラード』・・・性急でなく、ユーモアを込めつつ、しかし鋭い、ソウルを下敷きにしたロック。こんなのそれまで触れたことがなかったから、とにかく衝撃的だった。カッコよかった。わけても、屋上で寝転びながら、タバコの煙も青く、教科書広げてる「彼女」を想う『トランジスタ・ラジオ』はなんともいえない開放感と切なさがあって、好きだった。


僕が強烈に「ロック」というものを感じたのは、このときが初めてだったんじゃないか。


長い不遇時代を経験した清志郎の作る曲の根っこにあるのは、きっと孤独、絶望といったネガティブな思いだと思う。しかし、そういったことを前提にした上で、決して暗く、重くならず、むしろそういったことすらどこか斜に構えながらも楽しんでしまう強さがあって、それがストレートに詞とバンドサウンドでリズミカルなカタチになっているところがRCの良さであり、ロックなところじゃないかと思う。日常の中でたまに顔を出す、小さな、でも無視出来ない違和感と闘っていく・・・ユーモアを込めて、決して貧乏臭くならずに。たぶんそれはもはや「反抗」という枠を超えてしまった、「生きる」ことそのものだ。



ちなみにこのカセットテープ、A面の番組はどうやらNHK-FM渋谷陽一サウンド・ストリート」で、「売れなかった頃はいろいろ考えていたんですか?「僕はいろいろ考えてましたよーーー今日の晩ご飯はなににしようとか」「つまり日々の生活に追われていたと」という感じの、ふたりの噛み合いきらない会話がなんとも可笑しい(笑)。B面はどうやら、MCを聴くにFM東京でオンエアされたもののようで、「絶対(このMCも)オンエアしてくださいね」と、後年散々罵ることになるFM東京を「さん」付けで呼んでいたりして、これもまたなんだか微笑ましい。また「RHAPSODY」収録のテイクよりさらにテンポが早く、タイトで、なによりも「5人」のメンバー紹介になっている「よォーこそ」や、それに「スローバラード」が続いてしまうというとんでもない曲順だったりする。今でもベスト盤より愛聴している・・・って、いつまで借りてるんだろう(笑)。

*1:'80年出版。RCのアーティスト本

*2:清志郎が音楽誌に連載していたエッセイをまとめたもの